パロディか侵害か:ジャック ダニエルの犬用おもちゃの商標訴訟を振り返る
ジャック ダニエルの犬用おもちゃをめぐる商標紛争を、パロディ、侵害、ロジャーズテスト、商標法の限界という観点から検証します。

ジャック ダニエルとVIP Productsのあいだの最近の商標紛争は、パロディと商標侵害の限界について興味深い問いを投げかけています。
ジャック ダニエルは、VIP Productsの犬用おもちゃ「Bad Spaniel’s」について商標侵害の訴訟を起こしました。このおもちゃは、ジャック ダニエルの代表的な製品の「Old No. 7 Brand Tennessee Sour Mash Whiskey」を「The Old No. 2 On Your Tennessee Carpet(テネシーのカーペットに大きいほうの粗相)」に変え、保護されたボトルの形状のトレードドレスもまねることで、明らかにパロディにしています。
米国連邦最高裁判所は全員一致の判決で、この件には合衆国憲法修正第1条の特別な保護は適用されないと判断しました。
エレナ・ケーガン判事は、侵害を訴えられたVIP Productsが、パロディや論評にともなう非商業的な保護を受けるのではなく、自社の商品の出所を示すために商標を使っていたと最高裁が判断したことを明らかにしました。
最高裁は、商標の使用は、他者の製品をパロディにしたり論評したりしているというだけで、自動的に非商業的な扱いを受けるわけではないと強調しました。
ロジャーズテスト
ロジャーズテストは、修正第1条で保護される表現作品が関わる事案で、商標侵害の主張を評価するために使われる法的な基準です。そうした作品での商標の使用が、保護される言論にあたるのか、それとも商標侵害にあたるのかを判断します。
商標侵害の主張を続けるには、申立人は、使われた商標が作品と芸術的な関連性を持たないこと、または作品の出所や内容について明らかに誤解を招くことのいずれかを示さなければなりません。第9巡回区控訴裁判所は、Bad Spanielsの犬用おもちゃを表現作品とみなし、ジャック ダニエルの侵害の主張にロジャーズテストを適用しました。
しかし最高裁は、このロジャーズテストの適用に同意しませんでした。VIPによるBad Spanielsの商標とトレードドレスの使用は商業的なもので、純粋な表現ではないとみなされたため、最高裁はこの事案にはテストが適さないと判断したのです。
最高裁は次のように述べました。
「ロジャーズテストがそもそも適切な場合があるのか、あるいは『非商業的使用』の除外がどこまで及ぶのかについては判断しない。侵害については、問題となった商標の使用が商標としての使用である場合、ロジャーズテストは適用されないとだけ判断する。希釈化については、パロディやそのほかの論評が同様に出所を識別する形で商標を使っている場合、非商業的使用の除外はそれを保護しないとだけ判断する。私たちの判断がいずれも、商標の使用が出所を示す機能を果たしているかどうかにかかっているのは偶然ではない。消費者が商品の出所を見分けられるようにしようとするなかで、ランハム法はその点を決定的なものにしている。」
表現性の問題
この犬用おもちゃはジャック ダニエルの商標をわずかに変えているだけで、ボトルの形状を保護するトレードドレスはほとんど変えられていません。パロディの商品である以上、元の商標をあまり大きく変えることはそもそもできません。変えすぎれば、狙った相手に元ネタがわからなくなってしまうからです。その結果、この商品は、商標侵害の主張に対抗できるほどの表現性をとうてい備えていません。
製品としてのこのキーキー鳴る犬用おもちゃには、商業的に販売するという非常に明確な目的がありました。VIP Productsは製品について表現の自由の保護を主張しましたが、ランハム法による希釈化の責任の除外は、商標の非商業的な使用にしか適用されません。そのため、この事案では商標の公正使用は適用されないとされました。
商品やサービスの販売を促進するための「商業的言論」で商標が使われる場合、修正第1条のもとでは限られたレベルの保護しか与えられません。
ランハム法は、出所の識別について混同を招くおそれのある第三者の商標の使用を保護しておらず、VIP Productsもこの点を認めています。
商標法の核心的な目的は、製品の出所についての消費者の混同を防ぐことです。商標が混同、希釈化、汚染を招く形で使われている事案では、裁判所はその使用を表現作品とみなしにくくなります。
Bad Spanielの事案では、裁判所はおもちゃと元のジャック ダニエルのボトルとの驚くほどの類似性に注目し、VIP Productsが消費者の混同のおそれに反論するのは難しいとしました。
これからの展望
ジャック ダニエルの犬用おもちゃの紛争は、VIP Productsやほかの有名ブランドが関わる同様の事案への扉を開いた可能性があります。
VIP Productsのカタログのなかで、商標侵害の主張を招きかねない商品はBad Spaniel’sだけではありません。同社は、Mountain Dew、Heineken、Coca Cola、Guinnessなど、ほかのブランドをパロディにした商品の販売を続けているからです。
VIP ProductsはBad Spaniel’sのおもちゃをカタログから失う痛手を確かに感じるでしょうが、興味深いのは、法廷闘争のあいだにジャック ダニエルが思いがけず「ストライサンド効果」を経験したことです。紛争が大きな注目を集め、VIP Productsの知名度を高めた可能性があるのです。「Bad Spaniels」「Jack Daniels Dog Toy」といった語のオンライン検索は、昨年11月以降、大きく増えています。自社の商標を法廷で守ろうとしたブランドが、侵害の疑いのある商品について世間の認知をこれほど高めてしまいうるという点は、ブランドが心に留めておくべき落とし穴です。
この事案は、表現作品とパロディの境界は主観的で事実関係によって左右されるため、商標権者は自社の商標の保護に常に注意を払わなければならないということを思い出させてくれます。
今後の商標紛争は、進化する商標法の状況と、言論や創造的な表現の保護と知的財産権者の権利とのあいだの繊細なバランスに、光を当てることになるかもしれません。
